忍者ブログ
05.21  
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

別に誕生日話ではないアズセレ習作。
アズールお誕生日おめでとう!

-----------
「セレナ! 今日も可愛いね」
 顔を合わせるなり、アズールは駆け寄ってきてその両手をセレナの頬に伸ばした。周囲の目を気にして、セレナはその手を即座に払いのける。そのやりとりは、もはやイーリス軍では日常的な光景だった。
 アズールは、いつも聞かされるこちらが恥ずかしいくらいに言葉を尽くす。彼から貰った腕輪を左手に嵌めるようになってからもそれが変わることは全くなかっ た。むしろ増えたくらいかもしれない。彼は相変わらず、セレナと顔を合わせるたび、可愛いと口にしては顔を綻ばす。彼を恋人と認めるようになって、はじめてその言葉が本当に口説くためだけ の甘いものではなかったことを知った。尤も「挨拶のようなもの」といつか本人が口にしていたように、真剣さには欠けていたが。セレナはいつもアズールのそ んな笑顔に「しまりがない」「バカっぽい」と文句をつけていた。それは必ずしも、本心ではなかったけれど。
 本当のことを伝えたい。本当のあたしを分かってほしい。欲求ばかりは素直に胸に抱いているのに、上手くいかない。何が自分をそうさせているのかは分からない が、気付いた時にはいつも心と正反対に動いてしまった後なのだ。
「ああもう……顔なんてそんなに簡単に変わんないわよ」
 アズールは毎日飽きもせずにセレナの顔を褒めるのだ。好きな人に容姿を褒められて悪い気はしない。喜ぶ心はどこかにある。けれどそう繰り返されるのも何か違う気がしていた。少なくとも、1日かそこらで劇的に顔が変わる訳がない。いつも顔を褒めるというのは、他に褒めるところがないからではないか。そんな風に勘繰る心もセレナの中には存在していた。
「そんなことないよ! セレナが言ってるのは造形でしょ? もちろん造形も世界一だけど……僕が言ってるのは表情も、だよ」
 そう言って、アズールはしまりのなかった顔をさらにくしゃくしゃにして笑った。笑うだけでも差を付けられる彼は本当に器用だと思う。踊りをやるものとしての自覚と訓練の賜物なのかもしれないが、彼の表情はその時その時の心情を鏡のようにはっきり映し出している。それは自分にはない、彼の美点だ。アズールはいつも素直だ。言葉も、表情も。自分と違ってひねくれたところがない。顔は怒ってしまうし、言葉はきつくなってしまう自分とは違って。その彼に、表情を褒められた。
「ねえ、セレナは気付いてないのかな。最近よく笑ってるんだよ。その笑顔が可愛いんだ。たとえば……僕の手を払いのける一瞬前、とか」
 一瞬前。それはつまり、彼に名前を呼ばれた瞬間ということだ。アズール曰くその瞬間には――笑顔になっているらしい。
 だとすれば、それは思っていることが顔に出てしまっているということだ。アズールが自分を見つけ、顔を綻ばせる瞬間の本心。彼が本当の自分を見つけ出してくれたのか、それともまさかアズールに感化されてひねくれ者ながら素直な表情を出せるようになったのか。どちらなのかは分からないが、とにかくセレナに彼へ本心が伝わってしまっていたことに混乱した。伝えたい気持ちが胸にあるばかりで、彼には決して伝わっていないものだと思っていたのだ。不器用な天邪鬼な性格のせいで。
「だ……だってそれは、あんたがあたしを見つけて嬉しそうに笑うのが……う、嬉しくって……」
 しまりがない、バカっぽい、だけどその笑顔がセレナにとって本当は嬉しかったのだ。
 それを上手く伝えられない自分を、ずっと辛く感じていた。
 けれどそのもどかしい悩みは――杞憂だったのだ。アズールは、セレナが心から喜んでいる一瞬の顔を見つけ出していたのだ。
「え、ええ! セレナが笑ってたのって、そんな理由……!!」
「そうよ! なんか文句ある!?」
「とんでもない。でも、恥ずかし……いや、やっぱりすごく嬉しいよ。だってそれって……僕がセレナを笑顔にしてあげられてるってことでしょ? これに勝る幸せなんてないよ」
 顔を耳まで赤くしてアズールが笑う。幸せを絵に描いたような表情だ。まだ自分はこんな風には笑えないな、と思いながら彼の笑顔を愛おしく眺める。けれど、まだ笑えなくてもいいのかもしれない。どんな些細な自分の表情も、アズールなら見出してくれそうな予感があった。
PR
< 2024/05 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31  >
<<  >>


忍者ブログ  [PR]