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03.18  SBP
 萩之介は一人で静かにストップウォッチを止めた。愛用しているそれの示している時間は1時間43分22秒。その数字を見て、彼の頭には反射的に筆算が浮かんだ。あと16分38秒。それは制限時間としていた二時間に渡る学校対抗焼肉大食いバトルの終了までの時間だった。
 人知れず溜息を吐いて、ストップウォッチをポケットにしまおうとした。しかしそれは、思いがけない人物に話しかけられたことによって抑制された。彼にその意図はなかっただろうけれど。

「あと大体17分か。もーちょいでちゃんと決着着いたんになあ」

 いつの間に近寄ってきたのか、四天宝寺の部長が滝の右手に握られていたストップウォッチを覗き込んでいた。初対面の相手に遠慮なく振舞えるのは、関西の人だからだろうかと一瞬考えて、萩之介はすぐにその考えを打ち消した。彼のチームメイトに、大阪出身の非常に難しい距離感を持った友人が居た。大阪の人だから、というそれだけで判断されることはしんどい、と昔彼は言っていた。萩之介は少し申し訳ない気持ちになってから、彼の人当たりのよさは人格やその人望故のものなのだろうと思い直した。人種は違うが、同じ人に臆せず接することのできる部長も萩之介に友人が居る。だから、萩之介は白石の取ってきた距離をそのまま彼の距離として諒解した。

「最後は結構どこも接戦だったしね。どうなるか楽しみだったんだけど」
 彼の取った距離をそのままに対応する。白石もそのまま、会話を続けた。
「ほんま? もう最後の方とか食うことに集中しすぎて周り見えてへんかったわ。どないな感じやったん?」
「氷帝が70皿、青学が43皿で、六角と四天宝寺が39皿で……あと、比嘉が60皿」
 制限時間の他にも、各校のこなした皿の枚数などのカウントも進んで行っていた萩之介は、途中経過を諳んじた。数字には強い。数を正しく揃えて、整えておく作業が萩之介は好きだった。把握しておくことが好きだった。なんでも数値として把握しておくと、大小をはじめとして関係が分かりやすい。何かを数字に直して把握するのは特技と言うより、彼の場合癖に近かった。
 白石はそんな萩之介の報告を無表情で聞いていた。初対面の萩之介には彼が何を思っているのかまるで分からず、無表情でいる白石を少し怖いと思った。距離感の難しい人は、感情も少し図りにくい。本音と建前がいつも存在している。気に障ることは言っていないはずだけど、と萩之介は口には出さずに自分の発言を反芻した。
「んー……残り16分38秒で27皿、か。じゃあたぶん俺と金ちゃんだけで頑張っても限度があったろうなあ」
 その発言を聞いて、萩之介は白石が頭の中で計算をしていたことを知った。そして同時に、少し白石に親近感を覚えた。きっと彼も、数値にして、分かりやすいものにして把握しておくことを好む人間だ。物事を正確に計ることを良しとする人間だ。
 冷静に戦局を見れる人間は嫌いじゃない。萩之介はほっとして、言葉を繋げた。

「うちの学校は跡部一人だったけど、青学が三人残ってたからね」
「ま、今回はご破算になったことやし、終わったこと言うてもしゃあないわ。また次に期待することにするわ」
 白石はひらひらと包帯を巻いた手を振って笑った。理詰めのチェスのよう、聖書のように正しいと比喩されるプレイスタイルから成るイメージに反して、白石は案外寛大で、心の広い人間だった。
 面白い人かもしれない、と萩之介は思った。白石蔵ノ介。萩之介は副レギュラーとして遠征等には常に参加していたが、レギュラー陣に比べて圧倒的に他校と交流する機会が少なかったので、他校には知り合いといえるほどの知り合いはいなかった。萩之介にとって白石は、初めて言葉を交わした他校の人間と言っても差し障りのない存在となった。
 だから、萩之介は彼と今後のつながりができることを期待した。
 期待して、笑った。
「次、あるといいね」
「ああ、また氷帝サンちとかで主催することがあったらぜひ呼んでや? えっと……」
「滝萩之介」
「すまんなあ。萩之介か。俺、蔵ノ介言うねん。なんか、ちょっと親近感湧くな」
「そうだね。じゃあまたね、蔵ノ介」
「あ、蔵ノ介って他校ん人に呼ばれるん初めて」
「ごめん、だめだった?」
「全然。ええよ、蔵ノ介で」

 ぱっと、包帯を巻いていない方の手を差し出された。右手に持っていたストップウォッチをポケットに今度こそしまって、その手を握る。試合の前後や形式として必要とされる場以外で、同い年の人間と握手を交わした経験は殆ど無かった。けれど萩之介はそれも蔵ノ介の距離感の内に入るだろうと一人で納得して笑った。萩之介は氷帝の中でずっと育ってきたし、氷帝の仲間のことが好きだったからそれで満ち足りていたが、こうして外の人間と交流する楽しさを初めて知った。





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なんて……百合百合しいことに……
大分夢見てます。えへ。
まさかの蔵ノ介&萩之介だよ! ただの俺得^q^
このあと滝さんが白石と仲良くなったよーえへへ的報告を跡部にして、
そうかよそりゃよかったなって言われれば私がとても満足します。

日吉書いたら滝さん書きたくなりました(笑)
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